Lesson7-3 小道具を利用したトレーニング

小道具の利用

日常生活の中にありふれた小道具や小物、階段などの設備だってメンタルトレーニングの道具になります。これらを用いたちょっとした小技を紹介しましょう。

筆記用具を使って勝負強さを鍛えるトレーニング

私たちが使うものとしてはもっとも身近な小道具はなんでしょう。恐らく、ほとんどの人は筆記用具だと答えるのではないでしょうか。「最も信頼できる小道具」は別にあるぞと答える方もいらっしゃるかもしれませんが、オフィスワーカーでなくとも何かのメモを取るのに筆記用具は必要ですし、ボールペンの一本もなしに仕事をする方は中々いらっしゃいません。

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そこで、そういった筆記用具を用いたトレーニングを知っておけば、様々な局面で役立たせることができるわけですね。ボールペンやシャープペンを使ったメンタルトレーニングのテクニックは色々と存在しますが、ここでは比較的簡単なものを紹介します。

用意するものはシャープペン、あるいはボールペンなどの長い筆記用具です。以下の手順を読みながら、早速実行してみてください。

  1. ペン先を机の上につけ、反対側の頭を人差し指で押さえる
  2. 人差し指を一瞬離し、ボールペンが倒れる前に元に戻す
  3. 1と2を30回連続で成功させる
  4. ただし30回連続でボールペンを倒さずに済んだら「成功」

このチャレンジを〇日間(大体一週間くらいが目安になるでしょうか)連続で成功させます。失敗した場合は、その日のうちに一回だけ再挑戦しても良いものとし、二回目の挑戦で失敗した場合は「〇日連続成功」のカウントをゼロに戻します。

簡単な練習なので毎日行うのは難しくありませんが、それゆえ一日に何度も挑戦してしまいたくなります。しかし、Lesson5を思い出してみてください。本番は何回訪れますか? そう、一回しか訪れません。そのときに勝負強さを発揮するためには、その一回のチャンスを確実にものにするための練習を繰り返す必要があるのです。

ボールペンを倒さない、というのは練習としては比較的簡単なものですので、別のチャレンジで「〇日間成功」を狙っても良いでしょう。しかし、その場合もあまり難しいものにする必要はありません。たとえば学生さんがこの練習を「ペン回しを1分間持続させる」にした場合、よほど得意な人でない限り、数日に一回は失敗してしまいます。

鍛えるべきはボールペンを倒さないスキルやペン回しのスキルを磨くことではなく、何日も連続で成功させて、「次に失敗したらアウトだ」という緊張感を生み出ことなのです。他の課題を使用するときも、そこをはき違えないようにする必要があるでしょう。

簡単なことでも、緊張していれば成功は途端に難しくなります。一日の挑戦回数を限ること、何日間も連続で成功させなければいけないという縛りを設けること。そうすることで、緊張感に対抗するための練習の精度は一気に跳ね上がります。覚えておきましょう。

ペンを滑らかに倒していく集中力トレーニング

集中力を鍛えるためのトレーニングとして、手で持った棒状のものをゆっくりと滑らかに地面と平行になるように倒していくというものがあります。これは指先の感覚と筋肉のコントロール精度を高めるのを目的とした練習方法ですが、同時に集中力を鍛えることができるため、メンタルトレーニングの一環としても取り入れられています。

用意するのはペンなどの棒状のものです。ドライバーのように、持ち手が太くて先が細いものを使用した場合は、地面に平行に倒した時に指先に尋常でない負担がかかりコントロールが難しくなりますので、なるべく軽めで重さが均等なものを選ぶとよいでしょう。

早速実践してみましょう。画面の前でペンを用意してみてください。それから、今度は親指と人差し指でペン先を摘んで、地面と垂直になるように立てます。そこからゆっくりとペンの頭を地面と水平になるように倒していきましょう。

指先のコントロールという観点で見ると、この方法はペン先をゆっくり倒していくことで指先の微細な筋肉の動きの調整を練習するというものになります。力の入れ方をコントロールするのは簡単なようですが、実は正確さを極めようとすると難易度が跳ね上がります。たとえばパソコンのキーボードを叩くという動作一つとっても、キーが反応するギリギリの深さだけ押し込むのが力を節約する最良の方法ですが、これを実践している方はプロのタイピストにも少ないのです。

最低限の力でペンをゆっくり倒していくという動作そのものは、さほど難易度の高いものではありません。しかしこれをなるべく滑らかな動作にしようとすると大変な集中力を必要としますので、短時間で緊張感と集中力を鍛えるのに向いています。また、静かな場所であれば、音を立てずに練習を行えるのもメリットの一つと言えるでしょう。

階段を一気に駆け上がる

これはLesson4で心拍数のコントロールを経てきた方向けのトレーニング方法です。

自分の心拍数を確認した方は、緊張したときの心拍数や呼吸のリズムを把握できているはずですが、逆に落ち着いている時や素晴らしい興奮状態に入ったときの心拍数も理解しているはずです。

「緊張した」と思ったら、まず心拍数を測りましょう。もし自分が緊張しているときの数値に近ければビンゴです。会議やプレゼンテーションの直前でこの状態に陥った時は、何らかの方法を用いて緊張をほぐしてあげる必要があります。

そのために利用できるのが、会社の廊下や階段です。学生時代、あるいは社会に出てからスポーツに取り組んだ経験があれば、ちゃんと準備運動をして身体をほぐしたり、身体の筋を痛めたりしないような走り方も可能でしょうし、運動して心拍数を上げることも不可能ではありません。

そこで、昔取った杵柄を利用します。会議やプレゼンが近づいたときは、会社の廊下を走ったり階段を駆け上ったりすることで、自分の心拍数を快い興奮状態のものに上書きしてしまうのです。

若干強引な方法だと思いますか?

しかし、身体と心を連動させるメンタルトレーニングを積んでいれば、身体を動かすことで心の状態を調整することも可能です。もちろん完璧な方法とは言えませんし、結局のところストレス源そのものを打ち倒せるわけではないのですから、これは対症療法に過ぎません。本当に大事なのは、良いプレゼンや良い発表をするための下準備です(これもメンタルトレーニングで口を酸っぱくして言ってきたことですね)。

それでもどうしても緊張は避けられない。そんなときの最後の手段として、廊下や階段を用いた「走り込み」を実践してみましょう。成功したら儲けものです。