保護者は常に理解者か?
ここから先は少し限定的な内容になります。あなたがメンタルトレーニングの指導者であるとして、まだ若い中高生を指導する場合に注意しなければならないこと、すなわち、保護者との関わり方について学習します。
保護者は理解してくれる?
中高生を対象としたメンタルトレーニングを行う場合、その保護者にはきちんと了解を取っておかなければなりません。なぜなら、日本ではまだメンタルトレーニングはそれほど浸透しておらず、親がその内容を誤解している可能性があるからです。

メンタルトレーニングの内容一つとっても、何も知らない親からすれば諸手を挙げて賛同できるようなものばかりではありません。たとえばメディテーションなどはヨガや東洋思想から取り入れたトレーニングですが、その背景に怪しい宗教的な思想があるのではないかと疑われれば、そのような怪しげなトレーニングはやめてしまえと言われてしまう可能性があります。
メンタルトレーニングは最初の心理検査からお分かりいただけるとおり、統計学等の知識とプロのスポーツ選手の知見を応用して考案された科学的なトレーニング方法です。もしあなたがメンタルトレーニングを導入する場合は、指導対象子供だけでなく、その親に対してもきちんとした説明を行う必要があるでしょう。
幸いにして、目標の設定やその達成などは、普通に生きて社会人をやっているようなご両親に対しても理解してもらいやすい内容です。したがって、説明する場合は、まず目標設定や計画を立てることの重要性から解説を始めるのが良いでしょう。
良好な三者間の関係を作る
指導対象の選手、指導者であるあなた、そして選手の親という三者間の関係を良好なものにすれば、メンタルトレーニングの練習は一気に効率が良くなります。全員がメンタルトレーニングの理解者となることで、その練習が何を狙ったものか理解できるようになり、適切な振る舞いで応じられるようになるからです。
例えば選手が大きな声で朝の挨拶をした場合、それを日常生活に取り入れられたトレーニングであると理解している親は、相手の気分を盛り上げるような大きな声で返答を行ってくれます。理解者同士の相乗効果はけっして馬鹿にできるようなものではありません。
したがって、指導者であるあなたは、親に対して何をして欲しいか、何をして欲しくないのかを最初に明言する必要があるでしょう。
親にやってほしくないこと
子供を叱り付ける
メンタルトレーニングの基本は褒めて育てることです。自分に対してもっと上手くなると暗示をかけたりして、マイナス思考を取り去っていくことでモチベーションを高めます。したがって、ちょっとした失敗で激しく怒鳴りつけるようなことをして、選手のモチベーションを下げるような行為は絶対に止めるべきなのです。
チームプレイの邪魔をする
親からすれば子供はとても可愛いものです。子供の所属しているチームの試合を見学することもあるでしょう。しかし、その時にチームプレイの和を乱してまで練習や試合に介入してはいけません。
チームプレイは全員が一丸となって行うものです。個人的に親が自分の子供と話したいのはわかりますが、その時間は家に帰ってからでも確保できます。選手と指導者は、わずかな練習時間で技術的な練習に精を出したり、ミーティングを行ったりする必要があります。その貴重な時間を奪うのは止めなければなりません。
指導者に対して不信感を募らせる
かつてそのスポーツをやったことのある親にありがちな傾向ですが、指導者の腕を信頼せずに、自分の意見を押し通そうとする方もいらっしゃいます。
スポーツの世界は日進月歩であり、ある世代では正論だったものが次の世代で否定されるのはありがちなことです。「練習中に水を飲んではいけない」「足腰を鍛えるうさぎ跳び」などのもはや害しかない迷信を押し付けられでは指導もはかどりません。
「現代ではこのように指導するべきだとされています」と、科学的なデータや信頼のおけるスポーツ心理学の論文から論拠を持ってきて、適切に反論できるようにしておきましょう。
親にやってほしいこと
逆に親に介入していただきたい場面もたくさんあります。まず指導者は指導対象を二十四時間見ていられるわけではありませんから、家にいる間は親に任せる必要があります。その際にあなたの提示した指導方法を守らせてくれる存在は、選手の親か兄弟くらいのものです。二十四時間監視体制のような圧力のかかることをやるべきではありませんが、選手のプレッシャーにならない程度に近くで見守っていただけると大変ありがたいのです。
ミーティングへの立ち会い
選手と指導者の間で練習方針などを話し合うミーティングの時間はきっちり取りましょう。そして、可能であれば親にも同席していただきたいものです。
子供が何を目指しているが、指導者はどのような目論見で練習方法を考えているか、何の試合で結果を残すことを目標としているのか。そういった細々としたことを共有できれば、親もいざと言う時に対応しやすくなります。
また試合会場への送り迎えや、試合毎の健康管理など、子供だけでは充分な対策が取れないものがたくさんあります。特に食事内容はほとんどの家庭で子供ではなく親が決めていることだと思いますので、タンパク質を中心とした食事にする、野菜を積極的に摂取するといったことについては、親の協力が不可欠です。
保護者間での良好な関係の構築
一人の保護者が指導者や選手のことを理解したとしても、他の保護者たちがメンタルトレーニングについてまるで理解していなければ、練習効率を上げる事はできません。
指導者であるあなたは親の一人ひとりに対して、やってほしいこととやるべきではないことをきちんと紙面にまとめて提示する必要があるでしょう。またその際はなぜそのような紙面が必要になるのか、スポーツの指導者としての立場から根拠を示さなければなりません。
そうやって各ご両親に理解を得て、選手のメンタルトレーニングを円滑に進めること。これもメンタルトレーナーとして重要な技術と言えます。実社会に出る際に面接でコミニュケーション能力が問われるように、メンタルトレーナーにも深い知識だけでなく、周囲の人間の協力を取り付ける人間関係調整の力が必要になるのですね。