Lesson6-3 大学生と社会人

大学のメンタルトレーニング導入が遅れている?

実は最近まで大学生は「最もメンタルトレーニングの導入が遅れている世代」と考えられていました。実際の話として、数年前のメンタルトレーニングの教本などを読むと、そのような記述をよく見かけます。

しかし、メンタルトレーニングが普及した高校生の世代が大学に進学するようになるにつれて、この傾向は徐々に解消されてきました。今ではスポーツ活動に勤しむ大学生なら、メンタルトレーニングに関する知識をある程度身に付けているものと考えてよいでしょう。

しかし、大学は個人主義の傾向が強い場所です。メンタルトレーニングを実施してなかった元プロの選手たちが指導者としてやってきている場合もあります。彼らはメンタルトレーニングの効果を知りつつも、自分たちが体験したことのない練習に対してはやはり抵抗があるようで、あまり積極的に導入しようという気構えではありません。

確かにプロのスポーツ選手ならすばらしい技術を持っているでしょう。体を動かすことに関しては下手な指導者とは比較になりませんし、何よりその圧倒的な実力で選手たちを引き付けます。

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とはいえメンタルのトレーニングは体の使い方のトレーニングとはまったくの別物です。プロの選手には技術の指導者としての実力はもちろん備わっているのでしょうが、最初に申し上げた通り「心技体」の心の部分まで鍛えてくれる保証はありません。心についてはプロの選手より心理学者の方が詳しいということも往々にしてあるでしょう。

餅は餅屋です。大学生を相手にメンタルトレーニングを導入する場合は、そのようなプロの指導者を含めて説得する必要があると考えるべきです。

ある意味ではとてもハードルの高い使命ですよね。しかしこれは、逆に言えばとても理想的な環境が用意されているとも言えます。もし選手達と技術面の指導者を共に説得できるなら、その大学はプロの指導者とプロのメンタルトレーナーを手に入れることになります。「心技体」の「心」と「技体」を両輪として、一気に飛躍して行ける可能性が爆発的に高まるでしょう。

もしあなたが大学生であれば

大学は自主性を尊重する場所です。中学や高校と違って、必ずしも所属する学校のスポーツクラブに縛られたりはしませんし、指導者の練習法が自分に合わないと感じたら、自ら練習法を工夫してしまっても構いません。そもそも指導者がちゃんとした練習メニューを考えてくれる保証もありませんしね。

もし所属している大学のスポーツクラブがメンタルトレーニングを取り入れていない、あるいは軽視していると感じた場合は、自分から積極的に学んでいきましょう。それで効果があると感じた場合は続けていけば良いですし、チームメートたちと話しあえる環境があるなら、自分の手でメンタルトレーニングを広めても何の問題もありません。

大学生にとって大事なのは自分で取捨選択をすることです。そうして、自分が考え選んだものに対して自分で責任を取るのが、大学生の大学生たる所以、高校生までとは違うところです。親や指導者がサポートしてくれるわけではない環境を手に入れたのですから、積極的に有効活用していきましょう。

社会人とスポーツ

社会人で本格的にスポーツをしている人となると、かなり珍しい部類に入るでしょう。就職すれば身体を動かす機会は減ってしまいますし、趣味人であったとしても月に一~二回ほど集まっての親善試合がせいぜいといったところです。体力的にも衰えを感じてくる時期ですし、体を動かす趣味よりは、もっと静かなものや時間のかからないものに楽しみを見出す傾向にあります。

したがって、ここでは実業団に入った選手やプロのスポーツ選手を対象としたメンタルトレーニングのやり方について紙面を割いていくことにします。

プロも一人でメンタルトレーニングをやるべきか

これに対しては最初に答えを書いておきましょう。もちろん、NOです。確かにメンタルトレーニングの中には自分一人でできるイメージトレーニングもたくさんありますが、それ以上に大事なのは理解のある周囲の人間との協力体制です。

チームプレイなら気の合う仲間がいなければサイキングアップ等もできませんし、コミニケーションでお互いを高めていくことも不可能です。親兄弟や仲の良い隣人たちがいなければ、大きな声で挨拶してもあまり楽しくはないでしょう。

何より、最初に導入した心理検査のことを思い出してください。人間はあのような心理検査を行わなければ、自分の性格傾向もはっきりと掴めないものなのです。鏡を見なければ自分の顔も見えないのに、自分一人で心の在り方を把握できるわけがありません。

プロの選手ならばこそ、自分たちのメンタルをある程度把握した上で助言をくれるような人間の存在がとても有用であることはよく理解しているものです。練習の記録をつけたり日誌を付けたりするにしても、違う目線でアドバイスをくれる存在は極めて貴重ですから、もしかしたらあなたが十分な知識を持っていなくとも、パートナーになってくれと言われることもあるでしょう。

しかしやはり相手はプロですから、サポートに徹するにしても充分な知識を身に付けておくべきでしょう。メンタルトレーニングに対する理解を深めるだけでなく、心理学や精神医学、場合によっては栄養学まで身に付ける貪欲さが求められます。

最新のプロスポーツの知見や、新たに発見された心理的スキルの方法論など、最新の情報をキャッチアップしていく姿勢も大事です。