Lesson5-2 情報収集の重要性

情報収集が力になる

スポーツに限らず、情報収集というものは極めて大事です。昔から、

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」

という格言もあり、情報が勝負を分かつ要因としてどれほど重要であったかは、勝ち負けの世界に身を置いている人なら誰でも知ってることでした。今よりずっと戦争が身近であった古代人ならなおさらのことでしょう。

5-2

メンタルトレーニングでは、一番初めに心理検査を行って自分の性格傾向や心の特徴を探りました。もう覚えてないかもしれませんが、その場合はLesson2を再度ご確認ください。人は他人の情報を収集するのも得意ではありませんが、自分のことをよく知るのも難しいのです。

幸いにして現代は情報にあふれていますし、その気になれば欲しい情報を調べるための手段はあります。もしあなたがスポーツ選手の監督だったとして、対戦相手の情報が知りたいと思ったら直接足を運んでしまえば良いのです。もちろん中には性格の悪い指導者もいるでしょうけれど、見学にすら許可を出さないという人はなかなかおらず、むしろ強豪チームほどそうした交流に対し積極的である場合が多いものです。そうでなければ、東欧諸国からメンタルトレーニングの技術が外に出るなどあり得なかったでしょう。

もちろん目先のことだけが問題なのではありません。選手にとって大事なことは試合に勝つことであるとは言えますが、試合に勝った末に自分がどのような選手になるかということもとても重要なのです。あなたは指導者としてあるいは選手として、どのように未来を形作っていくかと言うことを考えながら情報を収集していく必要があります。そうして作った成功のイメージが、あなたの未来の雛形になります。

技術の雛形としてのイメージトレーニング

ここで1つ問題を出してみましょう。

「中国のプロの卓球選手によるカットをドライブで打ち返すときのように手首を動かしてみて下さい」

これはとても難しいことだと思います。なぜなら私たちの中でそもそも卓球に親しんでいる人の絶対数そのものがさほど多くはありませんし、中国のプロの卓球選手と試合をした経験の人はさらに少ないからです。そのうえ、素晴らしいカットマンのボールを打ち返した経験のある人など数えるほどしかいません。その回転がどれほどのものか、身をもって知ってる人はほとんどいないはずです。

もしあなたが卓球をしたことがないなら、そもそもドライブの打ち方だってわからないでしょう。手首を動かしてみてくださいと言われても、恐らくはできないでしょうし、イメージすることも難しいはずです。

知識がなければ私たちは明確なイメージを形作ることができない

そして、知らない動きやイメージできない動きは、再現することができないのです。

しかし、私たちはスポーツを知った状態で生まれてくるわけではありません。DNAにだって刻み込まれていません。最初は誰だって何も知らないのです。まずは外部からイメージを取り入れて、それを自分の動きとして再現すると言う練習を何度も繰り返して上手くなってきたのです。

スポーツの初心者は技術を身に付けるために、外部からイメージを導入しイメージトレーニングを行います。その予習と復習がスポーツプレイヤーが技術を身につけるための原動力になります。

本番の雛形としてのイメージトレーニング

一方上級者は既に技術を身に付けています。彼らが行うべきイメージトレーニングは、新しい技術を身に付けるためのものばかりではありません。そう、上級者に必要なのは本番に対する予習と復習です。

では、プロのスポーツ選手は実際にどのようなイメージトレーニングを行っているのでしょうか?

  • 試合で勝ち進めているときに不安を抑える
  • 試合で逆転された時に呼吸法を用いて冷静になる
  • 考えていた戦術が成功したときに、相手を圧倒するためのパフォーマンス
  • 試合中に体調が悪化したときの対応策

おおむねこのようなことを考えています。大切なのは、ここぞという時に力を発揮することですが、失敗したときの立て直し方もきちんと考えて対策を練るのがプロだと言えましょう。なぜなら、どれほど強い人でも、自分が負かされることが容易に想像できるくらい、みな切磋琢磨しているのがプロの世界だからです。

これはスポーツの世界だけでなく、本番が存在する他のあらゆる世界でも通用することです。難しい試験を受けているときのことを想像してみましょう。予想していた問題がバッチリ当たったにも拘わらず不安になってしまう人もいますが、そんな時に平常心を維持する手段として、呼吸や心拍子を意識することでセルフコントロールを行います。逆に完全に予想外のところから出題されてしまったり、解き方をど忘れしてしまっても、普段からセルフコントロールによって落ち着くための練習をしているなら、そこで落ち着くための手順を想像することができます。

もちろん、大事な会議に遅刻してしまった場合にどのように部屋の中に入っていくか、といったことを想像するのはあまり精神的によろしいことではありません。不安に対処するために心を鍛えるのはメンタルトレーニングにおいて極めて重要なことですが、マイナスイメージを想像するとマイナス思考が身に付いてしまう恐れもあるからですね。

そこで、次回のLessonではマイナス思考に陥らないための考え方、すなわちプラス思考の練習方法を習得しましょう。