Lesson4-1 セルフコントロールの前に

心を身体と同じように鍛える

Lesson3で目標設定の方法について学んだら、次はみなさんお待ちかねの「セルフコントロール」の学習に入ります。

セルフコントロールといえば、皆さんがメンタルトレーニングに関して最も期待することですよね。たとえば大舞台での緊張を抑えるとか、いざという時に落ち着く方法とか、そういったものを想像されているのではないでしょうか。

そう、おおむねその通りなのです。メンタルトレーニング最大の成果は本番で実力を発揮することですから、ここでは強い緊張状態を解き解すための様々なテクニックを解説していきます。

しかし勘違いしていただきたくないのは、ここで紹介する方法を用いれば誰でも緊張を解き解せるとか、簡単に落ち着きを取り戻せるとか、そのような万能薬じみたコントロール法を期待するのは間違っているということです。メンタルトレーニングはこのセルフコントロールの章に入る前に「自己分析」に始まり「目標設定」で選手生命のロードマップを立てる、という過程を経ています。

日々のちょっとしたリラックス法、大舞台に上がる前の緊張の解し方として、ここから先の内容を読むことも不可能ではありません。しかしながら、メンタルトレーニングにおいて大事なのは、それらの方法を用いるためには十分な下準備が必要だということですし、ここでご紹介する方法の大半は「緊張を和らげるための急場しのぎのテクニック」ではありません。

セルフコントロールは一夜漬けでは成立しない

よく誤解されることではあるのですが、メンタルトレーニングは「誰にでも同じ方法が通用する」というものではありません。それにテスト前の一夜漬けのような急場しのぎで成果を出すための方法でもありません。身体を鍛えるための訓練や練習と同様に、長い時間をかけてトレーニングを継続することでメンタルの強さを高めるための方法です。

スポーツ選手を見てみましょう。あの筋肉は、果たして一晩であっさりつくものでしょうか。プレイ時間中フィールドを駆けまわる体力は、瞬時に動きを察知する動体視力は、一昼夜の努力で身につくでしょうか。

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そんなことはありません。腹筋を割るのだって簡単なトレーニングでも半年はかかるものですし、チームプレイに至っては同僚と歩調を合わせるための時間も必要になります。一朝一夕に行くものではないことはご理解いただけることでしょう。

セルフコントロールについても同様のことが言えます。メンタルを鍛えることで大舞台に立つ際の緊張を和らげることはできますが、そのためには時間を十分にかけて心を鍛えていかなければなりません。筋繊維を太くしていくような慎重さで、ゆっくりと心を強靭なものへ作り変えていくこと。セルフコントロールの「練習」を毎日のように行うこと。それがメンタルトレーニングにおける「トレーニング」の部分なのです。

大舞台に立つときのストレスの総量を減らすのは難しいことです。どんな人間だって、オリンピックのような世界一を決める場に立てば緊張するものですし、生きられるかどうかさえ定かではない宇宙空間に行くとなれば手が震えてきます。ストレス源そのものはいつだって凄まじいのです。

セルフコントロールにおいて肝要なのは、外部からやってくるストレスの総量を減らすことではありません。ストレスを受け止められるように鍛えられた心を作ること、その強い心でもってストレスを受け流せるようなテクニックを身につけることなのです。それはさながらしなやかな筋肉を持つ選手でなければ出来ない動きをやってのけるような、心の超絶技巧です。

Lesson4の前半では、メンタルと連動した体の動き、緊張時の身体の特徴の把握に重点を置きます。そして、中盤では条件付けを用いた緊張やストレスの緩和方法を、そして後半ではそのようにして鍛えたメンタルが作り上げる最高の心理状態である「ゾーン状態」について解説します。