計画の修正
前回のLessonでは、大きな目標から小さな目標を立てていき、成功のロードを細分化していく方法について学びました。しかしその方法には大きな落とし穴があります。
それは、「人間は計画通りに動けない」というものです。
幼い頃に立てた人生設計の通りに生きて来た人なんて滅多にいません。有名どころではプロ野球選手のイチローがそうですが、彼だって完璧に自分の設定した通りにプロ野球選手としての人生を歩めてきたわけではありません。
目標には設定ミスがつきものです。
そんなときに無理をして目標を達成しようとするのは、間違いです。疲れ過ぎるとやろうとしていたことが完遂出来ずに終わってしまいますし、必死に頑張った結果として目標が達成できなかった場合は、人は挫折感を味わいます。
スポーツの世界に限らず、挫折感というものはとても恐ろしいものです。ちょっといつもと違う作風で出してみた瞬間に全く売れなくて筆を折る作家、初めて赤点を取って何も手につかなくなる学生、甲子園に行けるかどうかの瀬戸際でサヨナラ逆転ホームランを打たれて希望を立たれた野球少年、例を挙げればきりがありませんが、挫折した瞬間に立ち直れなくなる人は予想以上にたくさんいるものです。

世の中には軽々しく「失敗を糧とすべきである」とのたまう人もいますが、失敗を糧にするというのはかなり特異な才能に分類されます。普通の人は一度失敗したら立ち直れなくなり、別のジャンルで再挑戦するとか、諦めて小市民的に過ごすとか、そういう態度を取りがちです。
目標を設定する恐ろしさ、それも細かく設定する恐ろしさというものは、常に挫折の可能性があるということです。週ごとの目標が達成できなかった、月間の目標が達成できなかった。そういうときに「自分はダメな奴なんだ」と思い込み、練習そのものから足を遠ざけてしまう可能性があります。
ここで一度原点に立ち返りましょう。
そもそも目標を設定するのは、モチベーションを維持するためです。毎日少しずつ、自分で設定したハードルを越えていくことで、やる気を高いままに維持するためのものです。挫折を味わってやる気が削がれるようでは本末転倒なんですね。
ですから、目標が達成できなかったときのために、ちゃんとセーフティーネットを用意する必要があります。
失敗したときのセーフティーネット
目標が達成できなかった場合の指針として、念頭に置くべきは「やる気を維持するためにはこの失敗をどうやって処理すればよいか」です。これを間違えたまま目標を下方修正しても「自分は目標を下方修正してしまった」と考えて逆効果になってしまうこともしばしばあります。
次に考えるべきことは、目標が達成できなかったとしてその原因が自分にあるか、それとも「自分ではどうすることもできないところにあるか」を考えることです。たとえば雨が降ってグラウンドの状態が悪くて練習できなかったとしましょう。天気はあなたが気合で変更できるものではありません。したがって、それが理由で目標の達成に失敗したとしても、自分を責める必要はないわけです。
また、どのような練習も、確実にこれだけのことをやればこれだけの成果が出るというものではありません。大きな目標から細分化していったものには必ず綻びが生じます。そんなときに考えるべきは、「自分は目標の設定すら上手くできなかったのだ」ではなく、「本当はこのレベルの目標を設定するべきだった」なんです。
たとえば毎日グラウンドを10周するという目標を立てたとします。けれどその設定には無理があり、一週間も経たない内にばてて使いものにならなくなったとしましょう。そんなときは「一日10周も出来ないのは自分に体力がないからだ」と考えるのではなく「目標の立て方が間違っていた。一日10周ではなく、5周で計算すべきだった」と考えます。そして、「目標の設定が下手だった」と自分を責めるのではなく、「もっと効果的な目標の立て方が分かった」と考えます。
後のLessonでも触れますが、メンタルトレーニングにおいて大事なのはプラス思考です。失敗したときに「失敗した」と考えるのではなく、すかさずプランを練り直して立て直す。そうして「目標をより適切なものに設定し直した」ことを誇りに思うことが大切です。そうやって「今の自分に最も効率的な練習法」を探っていけば、小目標を達成するペースも上がりますし、自分で思って以上に成長しているものです。
最低限やるべきことを設定する
ただ、「目標なんか失敗しちゃってもいいや」と考えてしまうとそれはそれでダメなのです。一度負け癖のついた馬はレースで勝てなくなるという話もありますが、サボり癖がついてしまうと上達は見込めなくなります。
これを防ぐための方法としては、「一日に最低限これだけのことをやる!」というノルマの設定がなかなかに有効です。
先に挙げたイチロー選手の例を見てみましょう。高校に通っていた三年間の間、彼は必ず「10分の素振り」をやっていました。あのイチロー選手ですら高校三年になるとサボることを考えるようになったと発言していますが、その10分の素振りだけは一日も欠かさなかったのです。
単純作業の10分はかなり長いものですし、素振りだって本気でやれば大変重い練習である、ということに鑑みると、決して簡単なこととは言えません。けれど、彼の本来の練習量からすれば、10分の素振りというものはやはり大した練習ではないのです。しかし、その大したことのない練習を3年間続けるのもまた簡単なことではなく、プロとなったイチロー選手が公の場で発言するほどには、彼の自信の源となっているのです。
プロの小説家の中には「毎日原稿用紙五枚分書く」と言う方もいらっしゃいますが、その分量自体はプロの世界を見る限り、そう大したものではありません。しかし、これを80日続けると原稿用紙400枚、薄めの文庫本一冊ほどの分量になり、毎年4冊の文庫本を刊行することができます。
広告業界の方なら「毎日3つキャッチコピーを考える」とか、綺麗な字を書けるようになりたいなら「毎日ペン字練習帳を1ページ埋める」とか、そのくらいの努力のラインを想定すると良いでしょう。毎日やっても疲れないけれど何年も続けるのは難しい、そのラインを自分の最低限のノルマとして課し、消化していくことで、何年か後にはそれだけのことをやったと誇れるほどの練習が積み重なっています。
継続は力なり。そして継続の記録は自信になり、夢に向かう自分を後押ししてくれるでしょう。