Lesson3-3 目標のグラデーション

最終目標の設定

目標を立てる時、最初に設定すべきは「自分のなりたい姿」です。どのような選手になりたいか、というゴールを最初に設定しなければ、そこに至るまでの目標の細分化は出来ません。目的地がなければ電車に乗ってもどう乗り継いでいけばいいのか分かりませんし、なりたい姿もなく漠然と日々を過ごしているだけでは何も得られません。人生を無為に過ごしてしまうのを防止するために、まずは最終目標を、というわけですね。

なりたい姿を正確に思い描くのは難しいものですから、最初は漠然としたイメージで構いません。ここで重要なのは、人生の最終目標を設定するときに、それを設定した後のことを想像することです。

スポーツ選手を例に考えてみましょう。人生の最終目標が「オリンピックでメダルを獲る」だとして、メダルを獲得して引退した後はどのような生活を送りたいか、ということを考えます。「メダルを獲った自分にはどのような余生が相応しいか」という具合に、少し強気に設定してみても構いません。

もし会社員としてそのような目標を設定する場合、最後は「代表取締役となり〇〇界に貢献する」「引退後は家族と一緒に田舎でのんびり本を読みながら暮らす」といった感覚でしょうか。まずは夢を、そして夢を叶えた後は幸せな余生を想像しましょう。

あなたの人生の物語

夢を設定したら、今度はそこに至るまでの人生のロードマップを描きます。

前述の「オリンピックでメダルを獲る」を例に考えると、スポーツ選手の全盛期というのは種目によって異なりますが、だいたい20~40歳くらいの間に達成する必要があります。その後は指導者としてコーチ役に回ることもありますし、引退してスポーツとは無縁な生活をすることもありますが、まずは全盛期ともいえる期間内にメダルを獲らなければこの目標を達成することはできません。

ひとまず「30歳前後でメダルを獲得」としてみましょう。目標の仮置きです。そこから自分の年齢とオリンピックの開催年度を計算し、もう少し細かい年齢を弾き出します(ここでは30歳の頃にオリンピックが開催されると仮定します)。そこから次のステップへの移行が始まります。考え方は簡単です。「30歳でメダルを獲るためには25歳ごろには何をすればよいだろう」と考えれば良いのです。

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ただ、考え方自体は簡単だと言っても、そこに至るまでのロードマップをきちんと見通せる目がなければ具体的に想像するのは難しいものです。指導者や監督、アドバイザーから「30歳でメダルを獲るなら、25歳で日本でも10指の内に入る実力を身に着けている必要がある」「プロチーム入りを果たしてこの大会で実績を残さなければならない」といったアドバイスを受け、そこに至るまでのマイルストーンを設定します。

25歳でこれだけのことをやる必要があるなら、大学時代は〇〇で全国大会に出場し、その大学に入るためには高校時代にスポーツと学業でこれだけの成績を残し……と人生のロードマップを数年おきに埋めていきます。そうして現在の年齢まで辿り着けば、ひとまずは終了です。

これらを一枚の紙に記入していきましょう。あなたがこれから歩む道のりが紙面の上に出来上がっています。これがあなたの人生の物語です。自分が引退するときのセレモニーで、そこに描かれた道のりが読み上げられる姿を想像してみましょう。もちろんそれは全てが上手くいった人生ですから、実際には計画をところどころ修正していく必要があるでしょうが、ひとまずはそれを行動の指針にします。

人生の最良の日を想像するのは、スポーツのみならず様々な分野における成功者が常に念頭に置いていることなのです。

年間・月間・週間計画

人生の最終目標と数年ごとの達成計画を立てたら、次は具体的な目標設定に入ります。

数年ごとの計画まではある程度大雑把なもので構いませんが、ここから先は少し細かく、具体的に設定していく必要があります。

野球を例に考えましょう。年間目標の1つを「9回裏まで全力でプレイ出来る体力を身につける」に設定したとします。実際にはプレイの質によっても必要な体力は変わってくるので、コーチや監督と相談しながらノルマを考える必要がありますが、「毎日三食欠かさず必要な栄養素を摂る」「甲子園に出場する高校生チームの体力を参考に練習メニューを考える」といった形でまずは月間目標に落とし込みます

今度はその月間目標を週間目標に落とし込み、「週に3回、この高校野球チームが取り入れているランニングメニューを実行する」といった形で設定します。週に3回ですから、火・木・土にその練習メニューをして日曜日は休憩、という風に組んでみましょう。週に3回その練習を達成したらノルマクリアです。それを月間ペース、年間ペースで続けていくことで、目標達成のモチベーションを維持したまま先へ進むことができます。

小難しいことを書いているように思われるかもしれませんが、固く身構える必要はありません。たとえば「健康に生きる」という目標を立てたとして、日々の目標が「日付が変わる前に寝て、朝の七時まで眠る」だったとしましょう。日付が変わる前に寝付けられなかった日が週に2日あったとします。そうなると週間達成率は「5日/7日」となります。もし月間で「22日/30日」だったとすれば、月間達成率はおよそ73%という計算になりますが、このパーセンテージを少しずつ上げて行こうと意識するだけで、健康になれたという感覚が得られるようになります。

週間目標、月間目標はこのくらい単純で良いのです。

練習日誌を付ける

週間目標まで細分化したら、今度はデイリーのノルマについて考えるべきでしょう。月間・週間目標を細分化していく調子で日々の目標を考えても良いのですが、そこまで踏み込むにはやはりプロの指導者目線が必要となります。

「毎日これだけのことをしなければならない」

適切な指導者と一緒に練習メニューを組み立てられるなら問題はありませんが、もしそのような立場の人が身近にいない場合は苦労することになります。何が適切か、というさじ加減が分からず、やる気のある人はやり過ぎで身体を壊してしまう恐れがありますし、ない人はやらなさ過ぎで週間目標の達成に支障をきたしてしまいがちです。

そこで、日々の目標に関しては練習日誌を付けるのをお勧めします。これは日々の練習を振り返る上でもとても重要なことで「今日はこれだけのことをやった」という記録が累積していくだけでも自信につながります。また、日々の練習日誌には必ず「今日はなすべきことを成したか?」「今日できたことは何か?」という項目を設けましょう。

たとえば練習の前にストレッチをやるのをサボってしまっただとか、夜更かしをしてしまったため体調不良で練習に参加してしまったという場合は、今日の「なすべきことが出来なかった」欄にそのことを記入します。逆に、練習中に「ボールが止まって見えるようになった」「5キロ走っても全く息切れしなかった」という風に今までできなかったことを偶然にも達成した場合は、そのことをきちんと書き込みましょう。

そうやって練習日誌を付けていくと、日々のモチベーションを高いまま維持することができます。毎週末に毎日の日誌を読み返すことで、自分には何が足りなくて、自分が何を出来るようになったかを心に刻んでいく。さすれば成長を実感でき、明日の自分の姿、来週・来月の自分の姿、近い将来の自分の姿をイメージできるようになるでしょう。

成功のイメージを明確にしていけば、試合や記録会などで力を発揮する自分の姿もイメージしやすくなりますし、自分の本当の姿を客観視することにもつながります。まずは大きな目標から始め、それを細分化し、日々の記録を付ける。そのようにしてモチベーションを高めていきましょう。