Lesson3-2 目標のモチベーション

外発的なやる気と内発的なやる気

前回のLessonで目標を立てる重要性についてはご理解いただけたと思います。人がやる気を出すためには目標を立てて達成していくことが大事、ということで、実際にスポーツ心理学の世界では「目標設定」をプログラムに組み込んでいることが多いのですね。

もちろん目標設定などなくとも、スポーツを続けることは可能です。世の中には「やる気を出せ」と言われてやる気を出される方もいらっしゃいますし、そのような「外発的なやる気」の高め方も完全に間違っているとは言い切れません。選手自身にスポーツそのものへの興味がないとき、また厳しい環境に身を置かないと緩んでしまうタイプである場合には、外から圧力をかけてあげるのは有効な手段と成り得ます。

しかし、一流のスポーツ選手を見ると「人に言われたからやる、指示されたから動く」タイプは少ないのではと思わされることもしばしばです。「言われなくても練習をする」というよりは、むしろ「止められても練習をしたがる」タイプの方が多いのです。これはゲームをやる子供を見ていれば何となくお分かりいただけると思うのですが(身に覚えのある方もいらっしゃると思いますが)、ゲームは一日一時間まで、たまには外で遊べ、と言いつけてもなかなか言うことを聞かないでしょう?

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子供がゲームに興じるような集中力で勉強をしてくれたら……そう考えたことはありませんか?

実際、難易度の高い入学試験に合格するような子供は、勉強そのものを楽しいと思えるタイプであることが多いのです。仮に勉強が嫌いであったとしても、「高い点数を取る」「他人と競う」といった要素に楽しみを見出すなら、ある程度ストレスがかかるようなものにも耐えてしまうことがあります。

もちろん悪い習慣が中毒になってしまうのは良いことではありませんが、一流のスポーツ選手を目指すような人が練習中毒になるのは良い傾向であると言えます。もし練習のやり過ぎで怪我をしたり、その怪我を悪化させたりするようなら考えなければなりませんが、それだけのモチベーションの高さを維持できるのは、やはり常人には持ち得ない強みなのです。

一流の人が持つ「やる気」を、発破をかけられるときの「外発的なやる気」に対して「内発的なやる気(内発的なモチベーション)」と言います。以下に例を挙げてみましょう。

  • 練習そのものが面白い
  • 成長を実感した瞬間が楽しい
  • そのスポーツそのものが好きで好きでたまらない
  • 友達や対戦相手と競うのが楽しい

好きなことをやるのは楽しくて、誰だって夢中になってしまうものです。とはいえ人が何かを好きになる気持ちというものは気合でどうこうできるものではありませんので、そこで「目標設定」を用います。細かい目標を少しずつ達成していく経験を経て、「あんまり好きじゃない」から「もう少しやってみよう」「ちょっと楽しいかもしれない」「今度これをやってみよう」と少しずつやる気をステップアップさせて行きます。

大きな目標と小さな目標

スポーツ選手が本気で「上手くなりたい」と考える時は、往々にして「自分のなりたい姿」を思い浮かべているものです。それはプロのスポーツ選手かもしれませんし、身近なところにいる「上手い選手」である場合もあるでしょう。一言で言ってしまうと、その選手にとっての「憧れの人」です。

これはスポーツや芸術の世界に限った話ではありません。どの分野でも目標とするような「凄い人」はいるものです。その人に認められたいという気持ちを抱いて上手くなることもあれば、その人のようになりたいと思って練習を重ねることもあります。普通に生きている分には関係ないでしょう?と思われがちですが、頼りになる仕事仲間に期待したりするときは、私たちはそれに近い感情を抱いています。誰にとっても無縁な感情ではありません。

さて、ここからが重要です。「憧れの人のようになる」のような長い目で見る必要のあるものを「大きな目標」といい、「〇〇という技術を習得する」のように短期的に達成できそうなものを「小さな目標」といいます。

これまでのLessonでは目標を立てることの大切さを学んできましたが、その立て方にもちょっとしたコツがあって、たとえば大きな目標だけを立てても自分が何をすればいいのか良く分からず、上手くいきません。逆に小さな目標ばかり立てていても人生の目標を見失ってしまいます。

目標にも様々なスケールがあり、そのグラデーションを適切に設定すれば人生のロードマップを快適に歩んで行けるようになります。有名な金言に「困難は分割せよ」というものがありますが、目標に対しても同じことが言えると思いませんか。きな目標を達成するために小さな目標に細分化していき、その一つ一つを達成していけば、モチベーションを高いレベルで維持しながら大きな目標への道を歩んで行けるようになります。

目標の細分化にも目安があり、スポーツ心理学やメンタルトレーニングでは、日々の練習から週ごとの達成率、年間計画、そして自分の「なりたい姿」まで考える必要があります。優れたスポーツ選手なら一人で計画も立てられるものですが、若い時分にそこまで綿密な計画を設定できる能力はそうそう備わっていません。そこで、指導者が適切に導く必要が出てきます。

次回のLessonでは、細分化していった目標の目安について詳しく見ていきましょう。