科学的な2種類の心理検査
心理検査が「科学的である」理由は、サンプルとして何千人ものスポーツ選手に協力を依頼しているからです。心は化学的に分析器にかけて成分を抽出するといったやり方では細かく数値化できませんが、統計的な手法を用いれば、心を科学の俎上に載せることができます。言い換えれば、数千人のスポーツ選手に質問をし、統計を取り、質問に対する妥当性や信頼性が十分であると様々な検定を通して判断されれば、それは立派に科学的な方法であると言えるのです。

そのようにして作られた心理検査はいくつもあります。前回のLessonで挙げたDIPCA.3はその代表ともいえるものですね。もちろん、勉強をするにも様々な教材があるように、心理検査にも色々と種類がありますので、どの心理検査を使うべきかは時と場合によりけりです。提供元からの説明をきちんと押さえておく必要があるでしょう。
メンタルトレーニング系の心理検査は「特性」と「状態」の2つに分かれており、「特性」は受講者のメンタル傾向を把握するためのものです。一方、受講者の心理状態を測るためのものは「状態」に分類されており、長期間の練習や普段の活動場所を離れての心理状態の把握に適しています。
特性
先ほど挙げたDIPCA.3が「特性」を測る心理検査の最たるものですが、他にもTSMI(体協スポーツモチベーション検査)と呼ばれるものがあり、こちらもDIPCA.3と同じようにスポーツ選手用の心的傾向チェックのために用いられます。
また、スポーツ選手向けではありませんが、Y-G性格検査と呼ばれる心理検査もあります。このY-Gは「矢田部-ギルフォード」の略で、アメリカ南カリフォルニア大学心理教授であったJ.P.ギルフォード教授の考案したギルフォード性格検査をもとに、京都大学の矢田部教授が制作を試みたものです。現在はいくつかの会社がこちらの心理テストの販売を行っています。
Y-G性格検査は比較的安価に受講者の心理的傾向を把握することのできるものですが、こちらは6因子12尺度によって己の性格特性を明らかにするもので、集団や社会への適応性を見ることに長けています。企業勤めの方向けのテストというわけですね。就職活動の際に受講された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
およそ30分ほどで個々の特性の強弱が分かり、検査結果から「情緒安定積極型」「情緒安定消極型」といった形で自分の性格を類型的に捉えることが可能になります。またこの検査は一般・大学生用から高校用、中学用、小学用の四種類が用意されており、発達段階にあわせて性格検査を行えるようになっているのもポイントと言えるでしょう。
YG性格検査販売会社のHP(日本心理テスト研究所)※外部サイト
状態
受講者の心理状態を測るための心理検査も存在します。基本的には合宿・海外でのトレーニングなど、ある程度のスパンを見込む必要のある期間の心理状態をチェックするという用途で使われるものです。
有名なものはアメリカで開発されたPOMS(気分プロフィール検査)でしょうか。これは先に挙げたように合宿・トレーニング期間中の心理状態を捉えるために使われるものであり、受講者の心理状態を緊張・抑うつ・怒り・活気・疲労・混乱の6つの気分尺度で評価します。
基本的には一回の検査で過去一週間分の気分プロフィールを行なうものであり、これを4回、すなわち一ヶ月分行うのが望ましいとされています。なお、日本語版POMSは2017年4月末に販売が終了し、現在は改訂版のPOMS2(日本語版)がありますので、そちらをご利用ください。
国立スポーツ科学センターの心理チェックで使われるのが気分チェック調査票です。これは質問用紙を使った心理検査ではなく、感情を一本の直線上に表現するもので、その時々の心理状態を視覚的に把握するのに適しています。
他にもSTAI(状態不安検査)やPCI(心理的コンディション診断テスト)など、メンタルトレーニングにも応用出来そうな心理検査があるので、機会があれば詳しく調べてみるのもよいでしょう。