前回のLessonでメンタルトレーニングの歴史については充分な知識を得られたかと思います。
でもちょっとだけ、おさらいをしておきましょう。メンタルトレーニングは下のような歴史を辿り、徐々に浸透しています。
- 宇宙飛行士の訓練のために旧ソ連で開発された
- 導入したオリンピック選手たちが大舞台で成果を上げていった
- 世界的な動向に触発され、日本でも1980年代から徐々に広まりつつある
以上を理解したうえで、Lesson2からはメンタルトレーニングの内容を勉強していきましょう。まずLesson2ではメンタルトレーニングの前提となる「自己分析」について。そしてLesson3~Lesson5では具体的な方法論について。Lesson6ではメンタルトレーニングを導入する際の諸注意、そしてLesson7では、スポーツとあまり縁のない方でも応用できるような、メンタルトレーニングを日常生活に役立てる方法を学んでいきます。
それではメンタルトレーニングの起点となる自己分析について、詳しく見ていきましょう。
なぜ自己分析を行う必要があるのか?
メンタルトレーニングの大前提は「科学的な方法で心を鍛えるトレーニング」であるということです。対照的に科学的でない考え方として、今までも何度か根性論を引き合いに出しましたが、それにはちゃんとした理由があるのです。根性論における「やればできる」「成せばなる」といった考え方は何の根拠もないあやふやなもので、効果が出ないどころか人によってはプレッシャーがかかってしまうなど、かえって逆効果になってしまうことがあります。
何故でしょうか?
それは自分の心を正確に把握できないからです。自分が「頑張った」のか「頑張らなかった」のか、ストレスに対して「強くなった」のか、それとも「脆くなった」のか。根性論ではそのような指標を数値で表すことができません。数値で表せなければ成長しているかどうかもあやふやで、自分が何をしているのか分からなくなってきます。これでは天才肌の人でない限りは結果を出せません。
共通点は多々あれど、心の在り方は人によって違います。メンタルの強さにも様々な傾向があり、けっして一様ではありません。試合前に体の震えや筋肉の緊張としてメンタルの弱さが現れる人もいますし、夜寝付けなくなる、考えがまとまらなくなる、他人とのコミュニケーションに不安を感じるなど、人によって弱さの質は大きく異なっています。
分かりにくい場合は定期テストを想像してみると良いでしょう。国語、数学、科学、歴史などさまざまな教科の試験がありますが、人によって得手不得手は異なります。この弱点を把握せず、たとえば歴史の点が低いのに数学の勉強をしたとして、歴史の成績が上がるでしょうか? 国語の勉強なら多少は重複している面もありますので、全く効果が出ないとは言い切れませんが、いずれにせよ歴史の点数を上げる方法としてはナンセンスです。

メンタルトレーニングを行う際に大事なのは、事前に自分の心の傾向や弱点をしっかり数値化し、把握することです。勘や経験ではなく科学的な方法を用いるのは、心のように目に見えないものを数値化できるというメリットを重要視しているからに他なりません。「〇点上がった」という形で成長を如実に実感できる環境、実践したことや努力したことがフィードバックされる手ごたえを得られる環境は、選手たちにとっても楽しいものですし、メンタルトレーニングを進める上でも優れて効果的です。
その自己分析の方法ですが、現在では「心理検査を使用する」「質問回答形式の自己分析を用いる」の2つが主流となっています。次回のLessonでは、まず心理検査を用いた方法について学んでいきましょう。